《開催レポ》紅葉ガストロノミーランチバスツアー@正暦寺(11/30開催)

日本清酒発祥の地・正暦寺で、紅葉を愛で伝統の精進料理に舌鼓

〝日本が誇る食文化・和食。そのルーツは奈良にあり〟と、「日本の食の聖地巡礼・NARA」プロジェクトは、日本の食のルーツを知り、文化を体験できるガストロノミーツーリズムを企画。2023年度も多彩なプログラム6本が展開されています。

その第5弾は11月30日、紅葉の名所であり日本清酒発祥の地・正暦寺(奈良市菩提山町)へ、ゲスト20名を迎えてバスツアーが行われました。同寺の大原弘信住職に紅葉真っ盛りの境内を案内いただくとともに、『正暦寺と寺院醸造の歴史』について話を聴き、昼食には4年ぶりに再開された伝統の精進料理と奈良酒を味わうという贅沢な一日でした。

※ 本イベントは観光庁地域一体型ガストロノミーツーリズム推進実証第5弾として実施しました。日本清酒発祥の地であり、様々な日本の食文化のルーツを持つ奈良から国内外に向けて新たなNARAブランドを発信し、増え続ける訪日外国人をターゲットとして新たな商品造成と販路開拓を行うことを目的としています。

錦に染まる参道に日本清酒発祥の地の石碑
菩提泉仕込みの大甕前で大原住職から寺院醸造のお話

朝9時、バスは近鉄奈良駅前を出発。主宰スタッフの海豪うるる氏が歓迎の意を表し、本ツアーの趣旨と当日の行程を説明。「奈良には1300年の古にルーツを持つもの、「食」「漢方薬」「酒」があり、まさに〝美食のルーツは奈良にあり〟と言えます。〝奈良と言えば○○〇!〟と即答されるようなプログラムを作っていきたい」と話しました。

海豪うるる氏

ルーツの一つ『奈良酒』のDVDも視聴しながら、一行は奈良市街南東部の古刹・正暦寺へ向かいます。寺に近づくにつれ、あたりには刈り取りを終えた田畑が折り重なる里山風景が広がっていました。

秋晴れに紅葉が照り映える中、駐車場前の「お休み処 清流庵」の床机に腰掛け、大原住職から正暦寺のこと、同寺での日本清酒醸造の歴史と「菩提酛」の復活、正暦寺のオリジナル清酒『菩提泉』誕生までの話をうかがいました。同席した菊司醸造株式会社の代表であり杜氏でもある駒井大氏からも復元プロジェクト「奈良県菩提酛による清酒製造研究会」の取り組みについての話などがありました。

ちなみにその場所には2年前から始まった清酒『菩提泉』の仕込み甕や蒸し器などが設置されています。

お休み処 清流庵にて
『菩提泉』仕込み甕

北へ4~5㎞も寺領だった大宗教都市の僧坊酒。平成の世に『御酒之日記ごしゅのにっき』を紐解き、菩提酛を復活

正暦寺は992年、一条天皇の勅命で創建されたお寺で、当初は堂宇伽藍を中心に86もの子院が立ち並ぶ大寺域を持つ寺でした。度重なる兵火で頽廃しかけるも、その都度奇跡的な復興を成し、室町時代には旧に勝るほどの宗教都市として栄えたそうです。

そしてその室町時代に、日本清酒の原形となる『菩提酛造り』も確立しました。元々、お酒は神様に捧げるものでしたが、寺院経営の財源としての酒造でもあったそうです。火入れを行い、味と品質の安定性を図ったお酒を流通に乗せることで、収益を得ました。正暦寺を中心に1400年から1550年頃までが僧坊酒の全盛期だったとのことです。

ところが政治の中心が江戸に移ると、輸送コストなどから徐々に生産量は減り、さらに昭和~平成と清酒の消費が減る中、奈良で初めて造られた清酒を復活させようと、1995年に奈良県内の酒造関係者・研究機関・大学等の有志と同寺が連携、復元プロジェクト「奈良県菩提酛による清酒製造研究会」が発足しました。

室町時代の『御酒之日記』にあるその製造法を基に、正暦寺土着の酵母と乳酸菌を採取・培養し、1999年製造免許が下りた同境内で復活させた「菩提酛(酒母)」造りを始めました。そして酒蔵の有志(現7蔵)がそれぞれ自蔵に持ち帰った「菩提酛」を酒母として仕込んだ『菩提酛純米酒』を製造販売しています。

清酒の腐敗を避けるのは「そやし水(乳酸発酵させた殺菌水)」と火入れが二大ポイントと住職。「そやし水を使えば夏場でも酒を仕込めるので正暦寺のお酒は9月に搾りたてが出るという画期的なもので人気を博した」と駒井氏。氏はさらに「日本清酒発祥の地」と称される正暦寺の酒造免許は、寺院では日本唯一のものだとも付け加えました。

住職の案内で錦に染まる境内を一巡。龍神平から牛頭天王遥拝所の瑠璃光台へ

一通りのレクチャーが終わったところで住職自らの案内で、寺内を一巡しました。累々と石垣が続く本堂への上り坂。正暦寺は「山の寺」「川の寺」「紅葉の寺」と呼ばれるが「石の寺」でもあるそう。振り返っては照りモミジや散りモミジも楽しみながら本堂下へ。夥しい数の石仏が壁を成している箇所があります。

「これは、ここで亡くなったお坊さんたちのお墓です。大小色々な大きさがありますが、これは位の上下ではなく、寺の経済事情・栄枯盛衰を物語っています」と一同を笑わせられます。そこからさらに登り、龍神平へ。

龍神平
瑠璃光台で

そこは眼下に福寿院をはじめとする境内地、上方に目を転じれば青垣が望めます。「龍が寝ぞべっている形でしょう? 後方にも龍が伏せているような山があります。二匹の龍の間に菩提川の流れ、インドの須弥山思想につながると一条天皇の霊夢により、ここに宗教都市ができたのです」と住職。

本堂横手からちょっと急な石段、その上が瑠璃光台です。影向石に二礼二拍手一礼して上がります。そこからは山頂の神様「牛頭天王」を拝めます。仏教の神様であり疫病退散の神様に、皆さんコロナの完全終息や世界平和を祈っておられたようです。

本堂

本堂で薬師如来倚像いぞうに拝し、福寿院客殿から錦絵を愛でる

本堂では2体のご本尊「薬師如来」と1300年前の「薬師如来倚像(国重文)」に手を合わせ、狩野芳崖作「十二天王画像」などを拝観させていただきました。白鳳仏の薬師如来倚像は盗難に遭ったがために、火災の難を逃れられた数奇な運命をお持ちとか。

錦織り成す景色が見事な福寿院客殿(江戸時代 国重文)へ。入り口のところから数寄屋風建築の板葺き(こけら葺き)屋根、手前に檜皮葺の中門、そして瓦葺の山門と3種の屋根を望めるポイントがあり、「3種の屋根葺きを取り入れるのも京都文化を物語ります」と住職。

福寿院

さて客殿に入るやいなや飛び込んできたのは視野一杯の紅葉と黄葉です。白壁を背にした内庭とその外の寺領の自然木が織りなす自然風景式庭園ということです。皆様、緋毛氈(ひもうせん)の上でその美しさに魅入られながら、住職の話に耳を傾けました。

4年ぶりに復活した伝統の精進料理『楓御膳』と僧坊酒『菩提泉』など奈良酒のランチタイム

徳蔵院に移動してお待ちかねの昼食です。コロナ禍で4年ぶりの復活という正暦寺名物の精進料理。それに合わせて2021年から、寺内栽培の米「露葉風」と寺内に湧く岩清水で醸した正暦寺オリジナルの希少酒『菩提泉』で乾杯の後、「菩提酛」復活チーム7蔵の『菩提酛 純米』7種を自由に飲み比べしていただきました。

料理は、主に寺領内で作られた米や野菜を使い、全て手作りです。住職夫人の大原眞弓さんが、材料の野菜を手に料理の説明をされました。先付けには春から保存されていた土筆と蕨(わらび)も並び、山里の食生活の創意工夫を想像させました。

珍しい糸南京(いとなんきん)の酢の物、食用菊は酢の物のほかに天婦羅でも供されました。ご飯は黒米の栗ご飯、「全てがやさしい味付けで、食材の滋味が存分に味わえた」、「素朴な食材に手間暇かけられたことがよくわかる料理だった」と、皆様口々に話されました。

おなかを満たしたところで、『菩提泉』と7蔵の「菩提酛」の味わいなどについての質問や感想をうかがいました。「米はどこのものですか」「甘口・辛口の違いは、仕込みのどこで出るのですか」といった内容に、駒井さんが「寺領内の米です」「何段にも仕込み回数を増やすほど甘みの強いお酒になります、十段仕込みなんてのもありますよ」と丁寧に答えました。

『菩提泉』については、「最初、麹の味がぐっときて、次第になじみ、また後口に残る」とか「酸味があってサワーのよう、飲みやすい」など総じて好評でした。7蔵の「菩提酛純米」については、好みも別れましたが、「燗にして熱燗からぬる燗への温度差による違いが味わい深い」という通な感想も聞かれました。駒井氏によると、お酒の味は常温(15℃)で評価されるとのことです。

『菩提泉』
7蔵の『菩提酛純米酒』
食後は別室で、夫人特製の渋皮煮を茶菓子に、住職自らお薄を点てられて皆様に振る舞われました。特に好評だった渋皮煮は、夫人のお里の丹波の大栗を使われ、7日を要して作られるとのこと。「初めてこんなおいしい渋皮煮をいただきました」「これはフレンチです♪」などの惜しみない称賛が送られました。
この後、バス発車の15時まで1時間ばかり自由散策タイムが設けられ、皆様それぞれ、境内のお気に入りの場所 へ再訪したり、おみやげのお酒を購入したりと、紅葉の境内を心ゆくまで楽しまれていました。