《開催レポ》柿のプレミアムイベント@西吉野・五條新町(11/23開催)

柿日本一を誇る五條市
現地だからこそ実現できる柿づくしの特別なイベント

〝日本が誇る食文化・和食。そのルーツは奈良にあり〟と、「日本の食の聖地巡礼・NARA」プロジェクトは、日本の食のルーツを知り、文化を体験できるガストロノミーツーリズムを企画。2023年度も多彩なプログラム6本が展開されています。
その第4弾は11月23日、好天の下、柿の日本一を自負する五條市西吉野と五條新町などへ、ゲスト17名(うち外国人7名)を迎えてのバスツアーでした。内容は、人気のお祭り「柿の里まつり」見学→築150年を超える古民家の農家レストランで柿の収穫体験と地元のお母さんたちが作る旬野菜のランチ→五條酒造見学→風情ある五條新町の人気レストラン「源兵衛」で柿がテーマの料理とお酒のペアリング体験 という魅力満載の旅です。
今回も前3回、三つのホテルで行われた「奈良酒と奈良をルーツとする料理のマリアージュ+奈良の伝統文化体験」同様、資料・メニューなどは日本語・英語のものを用意。通訳ガイドが進行役やホスト・ゲストの話を同時翻訳するなど、外国人参加者に配慮しました。
※ 本イベントは観光庁地域一体型ガストロノミーツーリズム推進実証第4弾として実施しました。日本清酒発祥の地であり、様々な日本の食文化のルーツを持つ奈良から国内外に向けて新たなNARAブランドを発信し、増え続ける訪日外国人をターゲットとして新たな商品造成と販路開拓を行うことを目的としています。

移動車中では通訳ガイドが楽しくレクチャー。旅への期待が膨らみます

11月23日朝9時、受付を済ませた参加者とスタッフを乗せた観光バスは、橿原神宮前駅を定刻に出発、一路、五條市西吉野の柿の里まつり会場へ。道中、車内では英語通訳の松村洋子さんにより、「柿づくしツアー」でこれから訪ねるスポットの説明が、持参のパネルをかざしながらありました。

五條市は柿の生産日本一のところであり、『柿の里まつり(パーシモン フェスティバル)』へ立ち寄り、続いて築150年余の古民家レストラン「旬の野菜レストラン 農悠舎王隠堂」で柿の収穫体験をした後に、地元のお母さん方が旬の食材で作る手料理のランチをいただくことを説明。「王隠堂」という名前の由来も話され、皆さんその深い歴史に驚かれていました(後ほど説明)。

昼食後の酒蔵見学については、日本清酒の製造工程をワインと比較してわかりやすく説明。参加者は熱心にうなずきながら聴いて「試飲もありますよ」の言葉に、ちょっとウキウキ。ツアーへの期待が膨らんだようです。

大賑わいを見せる柿の里まつり
柿や加工品を買い物

年に一度JAならけん西吉野柿選果場で行われる「柿の里まつり」は、今年21回目。地元のみならず近隣県にも人気で他府県ナンバーの車も多く、現地では駐車待ちの車が渋滞。

40分の自由時間が設けられ、通訳ガイドと共に三々五々場内へ。キッチンカーやカフェブース、地元の出店などがずらりと並び、柿の詰め放題イベントや柿の直売が行われ、舞台では丁度、五條jr.バンド~奏~が吹奏楽で盛り上げていました。集合時には皆さん、柿などの買い物袋を手にしておられました。

旬の野菜レストラン 農悠舎王隠堂で、滋味あふれる柿づくし野菜料理を堪能

西吉野町湯塩の梅畑と柿山の続く里山の山頂辺りにある農悠舎王隠堂。南北朝時代の天皇・後醍醐天皇を匿った(王が隠れた堂)ことに由来するというだけあって、立派な門構えで豪農を想像させる旧家でした。

まずは、王隠堂家の柿畑で柿の収穫体験でした。家の前の柿畑で摘み方を教わり、ハサミを手に大きくておいしそうな柿探し。例年なら食べ放題に手土産付きなのだそうですが、今年は炎暑であまり実らず、一人3個ずつの持ち帰りとのこと、柿選びにも力が入ります。

豊作ではないというのが嘘のように、素人目には枝もたわわにたくさんの実が付いているように見え、皆さん真剣に選ばれていました。柿の摘果は初めての方ばかりでしたが、それぞれ立派な柿をゲットされて笑みも満開。

いよいよお待ちかねのランチタイムです。広々とした和空間に設えられたテーブル席で、庭の植栽を眺めながらいただきます。同レストランでは、地元のお母さん方が旬の食材を使い、その土地に伝わる手作りの知恵が生かされた野菜料理を提供。調味料も手作り味噌や塩(桜塩や梅塩)、梅ごま味噌ドレッシングなど無添加にこだわっています。

野菜3種の向付、柿釜に大和まなのお浸し、柿なます、柿入り野菜サラダ、野菜コロッケ、カボチャのポタージュ、野菜の天婦羅、みそ汁、香の物3種に薪火竈(焚火かまど)で炊いた羽釜のしめじご飯が順々に出来立てでサービスされました。

〆にはむき柿のデザートとお薄に柿の甘味が振る舞われ、まさに柿づくしのランチコース。「柿のきんぴら、びっくりです! これぞSDGsですね♪」、「天ぷらの大和トウキ葉、初めてです。おいしかった!」、「柿の天ぷら、甘くてグッド!」など、感嘆の声が随所で挙がりました。柿釜にかぶりついて完食された方も多かったです。

『五神』の五條酒造見学―蔵主に質問殺到。新酒をはじめ多種類の試飲と買い物

贅沢ランチを満喫した後は、西吉野から五條の中心地へ移動。JR五条駅すぐ近くの五條酒造さんを訪ねました。『五神』ブランドで知られる酒蔵で、今年は創業100周年と、奈良県酒造組合の水上和之氏が説明。酒はに供えるものであり、條の地で醸すところからのネーミングだそうです。

中元英司社長

同蔵は、金剛山系の清冽(せいれつ)な伏流水を用いて昔ながらの但馬流の手造り。少量生産で芳醇なお酒を醸しているそうです。ちなみに酒蔵は納豆菌が大敵ということを教わりました。蔵では今年の仕込みが始まっており、人に付いた雑菌の侵入を避けるため、入り口から中を垣間見ながら中元英司社長の話を聞きました。

2班に分かれての見学と試飲です。それぞれの班で「仕込み(醸し)期間は?」「朝ドラの『らんまん』で酒蔵が火落ちしたというくだりがあったが、それはどういうことか?」とか、頭上の杉玉を仰ぎながら「茶色のものの中に一つだけ緑色のがあるが?」など、質問も多く出て、中元氏は一つひとつに丁寧に答えてくださいました。
お酒は二つの化学変化によってできる、即ち①米(でんぷん)を糖化させる ②その糖をアルコールに変える ということで、そこがワイン(単発酵)と異なると話し、高級酒ほど米の洗いから搾りまでの各過程でそれぞれ手間暇をかけているとのことでした。
試飲スポットでは、たくさんの自社製品をずらりと並べ、ゲストの好みに応じてお酒を注いでのサービス。皆さんグラスを替えては次々と飲み比べをされていました。日頃はワインというフランス人夫妻も「日本酒、おいしいです」と大満悦の様子。

敷地内の庭には、かつて現役だった杉酒樽を利用した風流な茶室「壷中庵」があり、にじり口や小窓から内部を見学させていただきました。亭主のほかに2名が入れるという茶室には炉が切られ、小さな床と水屋まで設えられており、外国人ゲストは特に関心を示されたようです。

風情ある五條新町通りをそぞろ歩き。ミシュラン一つ星獲得の五條 源兵衛へ

五條新町通りは、江戸時代初期に五條藩の城下町として発展、時代時代の建築物が軒を連ねています。2010年に重要伝統的建造物群保存地区に指定。その風情ある街並みを興味深そうに眺めながら、メインイベント会場ともいうべきレストラン「五條 源兵衛」へ。2017年にミシュラン一つ星を獲得した名店です。

同店は、築250年の大型商家を和食レストランに改修。店主であり料理長の中谷曉人氏が、滋味深い五條の野菜を主役に、引き立て合う旬の食材にこだわり、新しい出会いを作る料理を提供されています。料理長自ら朝の畑に出向き、その日に採れる野菜と相談しながらその日だけの料理に仕上げるそうです。

柿の持つ魅力と相乗効果を生む食材のマリアージュ & 五條のお酒とのペアリングを五感で

中谷氏は「今日は、柿がテーマのガストロノミーツアーということですので、柿の多彩な魅力をお野菜と組み合わせて、物語性のある料理に仕立てます。そのお料理と日本酒とのペアリングを愉しんでいただきたい。料理はエンターテインメントでなきゃ」と、これから始まるパフォーマンスに期待を持たせます。
中谷曉人氏

【米と柿酢と蕪+『柿ワイン』】

まず初めは、炊きたてご飯に『柿酢』を混ぜ込んだ酢飯だけの試食、次に蕪の薄切りを添えて再び試食、同時に柿ワインだけの試飲の後、料理と柿ワインをマリアージュさせて味変を楽しませる趣向でした。「う~ん、柿ワインの味に奥行きが出た!」というのが大方の感想でした。

ちなみに『柿酢』は西吉野の「柿の専門 いしい(石井物産株式会社)の商品、『柿ワイン』は同じ五條新町通りの株式会社山本本家の看板商品です。それぞれ石井和弘社長と山本隆社長、五條酒造の中元英司社長も駆けつけて挨拶し、共に中谷氏が展開する食のアミューズメントをサポートしながら楽しまれました。

【柿奈良漬と木綿豆腐に香草+『五神 純米吟醸 生原酒』】

続いて「柿の専門 いしい」の『柿奈良漬』の超薄切りに町内の豆腐屋さんの木綿豆腐をのせ、山椒をあしらっていただくという一品が登場。絹ごしと間違うほど滑らかな木綿豆腐と柿奈良漬の塩味がよく合い、山椒の苦みと香りがアクセントになるとか。これには『五神 純米吟醸 生原酒』(五條酒造)をペアリング。力強いお酒が合うそうです。

【姫林檎とカリフラワーに干し柿スライス&柿バター+『露葉風』】

大商家の歴史を感じさせる立派な蒔絵漆の重箱には、焼いた姫林檎とカリフラワーに『柿チップ』をトッピングしたものがきれいに並び、これに『柿バター』を添えていただくというもの。『干し柿スライス』、『柿バター』共に「柿の専門 いしい」の人気商品です。柿は乳製品やたんぱく質と合うとのことで、こちらには『純米大吟醸 まほろばの雫/露葉風』(五條酒造)を合わせられました。

【鹿ローストと柿ジャム+『吟のさと』】

最後は五條ジビエ―ルの鹿肉。低温6時間調理した鹿ローストに『柿ジャム』(柿の専門 いしい)をちょっぴりのせていただくという料理でした。中谷氏は、「奈良公園の鹿は神鹿だが、五條の鹿は農家の人が苦労して育てる作物を食い荒らす害獣。だからその鹿を食べよう、その鹿が食べておいしい柿を人も食べてやろう!」と座を沸かせます。
「鹿肉は15回以上噛んだところで『純米大吟醸 吟のさと』(五條酒造)を口に含まれるとおいしいはずです」と言って、皆に薦めます。
「こんなにおいしい鹿肉は初めて」という声があちこちで聞かれ、「臭みもないし、とてもやわらかくてそんなに噛まなかった(笑)」という方もおられました。
終宴に近づき、中谷氏はペアリングシートを示して、「本日の日本酒のペアリングは僕なりのものですが、皆さんはまた異なったコンビネーションが好みかもしれない、それを記入してください」と促しました。参加者それぞれ真剣な表情で再試飲しながらシートやアンケートに書き込まれました。
普段は日本酒という中国人女性は「柿ワインが気に入りました♪」と柿ワインを何度もお代わりされていました。早朝から8時間、食を交えて一緒に過ごしたメンバー同士の交流も弾み、「泊まりでゆっくり酒を酌み交わし、もっと交流を図りたいし地元の人の話も聞きたい」と話す台湾の男性もおられました。

多彩なイベントに大満悦! サプライズは鹿の折り紙のプレゼント♪

名残を惜しみながら源兵衛を後にしたツアー客は、薄暮に包まれ始めた新町通りをバスまで戻り、車中の人となりました。バスが走り出すと、通訳ガイドの松村さんからサプライズがもたらされました。彼女が千代紙で折ったかわいい鹿が一人ひとりに手渡されたのです。思いもかけないこのおみやげに、皆さんとびきりの笑顔でした。奈良ツアーの印象がより深まったことでしょう。その後はもちろん解散地・橿原神宮前駅まで爆睡…。