〝日本が誇る食文化・和食。そのルーツは奈良にあり〟と、「日本の食の聖地巡礼・NARA」プロジェクトは、日本の食のルーツを知り、文化を体験できるガストロノミーツーリズムを企画。2023年度も多彩に展開してきました。最後を飾る第7回は、日本清酒発祥の地・正暦寺で、通常は非公開の菩提泉の仕込みを見学するという特別プログラムが行われました。
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日本清酒発祥の地・正暦寺 菩提泉二度仕込みの限定特別公開と
住職・蔵元のスペシャルトーク&「書道」体験
〜伝統の精進料理の昼食と菩提酛粕汁、お抹茶&特製デザート付き~
その第7弾は1月22日、日本清酒発祥の地・正暦寺(奈良市菩提山町)へ、ゲスト15名を迎えてのツアーでした。同寺では、通常は非公開のお酒の仕込みを特別に見学させていただき、大原弘信住職や油長酒造蔵元の山本長兵衛社長に『正暦寺と菩提酛』、その復活について話を聴き、住職の手ほどきで書道体験を楽しみ、4年ぶりに再開された伝統の精進料理と奈良酒や、住職夫人お手製のお菓子と住職自ら点てられた抹茶を味わうという、得難い体験が満載の一日でした。※ 本イベントは観光庁地域一体型ガストロノミーツーリズム推進実証第5弾として実施しました。日本清酒発祥の地であり、様々な日本の食文化のルーツを持つ奈良から国内外に向けて新たなNARAブランドを発信し、増え続ける訪日外国人をターゲットとして新たな商品造成と販路開拓を行うことを目的としています。
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日本清酒発祥の地・正暦寺で25年前に復活した伝統の菩提泉二度仕込みを見学
朝9時、バスは近鉄奈良駅前を出発、主宰スタッフの海豪うるる氏が、本ツアーの趣旨と行程を説明。「奈良には1300年の古にルーツを持つもの、〈食・調味料〉〈漢方薬〉〈酒〉〈お茶〉があり、まさに〝美食のルーツは奈良にあり〟と言えます。〝奈良と言えば○○〇!〟と即答されるようなプログラムを作っていきたい。本日のツアーで印象に残ったものはどんどん発信を」と促しました。続いて英語通訳が、日本清酒の歴史やワインとの製造法の違い、米の削り具合や蔵の環境によって味が異なることなどを、紙芝居でわかりやすくレクチャーしました。奈良市街からバスで南東へ約20分、田畑が広がる里山風景の先に古刹・正暦寺はありました。
駐車場前の広場には結界縄が張られ、「菩提酛」のロゴが入った大きな甑(こしき)から湯気が上がっていました。そこでは、「奈良県菩提酛による清酒製造研究会」(以下 菩提酛研究会)のメンバー7蔵の面々が下り藤(さがりふじ)紋の白法被(法被)姿でこれから始まる作業の支度をされていました。
大原住職の挨拶に続き、油長酒造蔵元の山本長兵衛社長から菩提酛研究会による「菩提酛」の復活、『菩提泉』誕生までの話を聴きました。
同寺は日本清酒発祥の地で、室町時代に清酒技術が確立されて僧坊酒が醸造されていましたが、寺の衰退とともに、お酒造りも途絶えていました。それを1995年に奈良県内の酒造関係者・研究機関・大学等の有志と同寺が連携、復元プロジェクト「奈良県菩提酛による清酒製造研究会」が発足。
室町時代の『御酒之日記』にあるその製造法を基に、正暦寺土着の酵母と乳酸菌を採取・培養し、1999年製造免許が下りた同境内で復活させた「菩提酛(酒母)」造りを始めたという経緯があります。
白い湯気を立ち上げる蒸し米に歓声
清酒「菩提泉」の二度仕込み
その間にも甑の湯気はあたりの冷気にますます白さと勢いを増していき、参加者は話に聞き入りながらも甑を写真に収めるなど大忙し。そして甑の周りに人が集まり始め、スコップで蒸し米を桶に移しては、麻布を敷いた台へ運び、広げる作業が始まりました。もわ~と白い湯気が上がりヨーグルトっぽい香りが漂って、そのたびに参加者の目が見開かれます。次々に運んでは広げて外気で少し冷やす、の繰り返しですが、その間にも手の感覚と温度計で冷め具合が計られていきます。38度まで下がったものから、後方の甕へ仕込まれていきます。
この蒸し米と麹、そやし水(乳酸発酵させた殺菌水)」で仕込んだものが清酒『菩提泉』。原料米は正暦寺の寺領で栽培された奈良県唯一の酒造好適米・露葉風(つゆはかぜ)だけを使用。水も同寺に湧く石清水を使用しており、生粋の正暦寺オリジナルです。ちなみに、正暦寺の酒造免許は、寺院では日本唯一のものです。終盤、酒の仕込みがうまくいくようにとの意を込められて、住職自らほら貝を吹かれるパフォーマンスがあり、これには皆さん、「おお~!」と、どよめき喜ばれました。
福寿院で庭園・境内を見ながら寺の由緒を聴き、瑠璃殿でご本尊を拝観
『菩提泉』仕込み見学の後は、客殿「福寿院」(江戸時代 国重文)の縁から庭や境内を愛でながら、住職による寺の由緒に耳を傾けました。藤原氏の家紋である下がり藤は、正暦寺が興福寺同様、藤原家の僧侶を受け入れるためのお寺であったこと、だから建物が京都文化に即した造りなのだそうです。
京都・祇園神社(現在の八坂神社)の神・牛頭天王を守護神とし、ご本尊は薬師如来様で、疫病退散、心や体の健康を祈る寺だということです。そのご本尊拝観に、宝物館「瑠璃殿」へ案内されました。台座に腰かけ蓮華の上に足を置く倚像の金銅仏「本尊・薬師如来倚像(飛鳥時代 国重文)」をはじめ数々の秘仏や寺宝を拝観しました。本堂に向かうため山門を出ましたら、そこに数寄屋風建築の板葺き(こけら葺き)屋根、手前に檜皮葺(ひわだぶき)の中門、そして瓦葺(かわらぶき)の山門と3種の屋根を望めるポイントがあり、「3種の屋根葺きを取り入れるのも京都文化を物語ります」と住職。
本堂で書道体験。住職による文字の成り立ちや筆遣いの指南
本堂前で住職自ら筆を持ち、半切大の紙に線や文字を書きながら、文字の成り立ちや運筆の手ほどきがありました。筆の持ち方は自由ですが、筆の紙への置き始めは一呼吸置くようになど、随所でポイントを押さえられます。寺のある山里にちなみ、「山」「水」、当日の酒造りにちなみ「米」「酒」の4文字を書き示し、「きれいな字を書こうと思わないで。明るい字、力強い字、広がりのある字など“自分の字”を書いて」とアドバイス。そしてサインに至るまで1本の筆で完結させるようにとのことでした。
さていよいよ本堂内に入り、参加者の書道本番です。墨を含ませた筆を持ち紙に向かって、好きな文字を書いていかれました。初めは慎重に、慣れてくるとややスピードもアップ、住職の助言も受けながら10枚の半紙に練習した後、色紙に清書しました。「初めての体験に緊張感も漂いながら、素適な時間が持てた」とか「思ったより難しかったけれど、楽しかった」、「ご住職が好きに書いていいと言われたので心が楽になった」などの感想が聞かれました。ちなみに住職は「書き続けることで気力を確かめている」そうです。
4年ぶりに復活した伝統の精進料理『早春御膳』と僧坊酒『菩提泉』など奈良酒のランチタイム
さてお待ちかねの昼食会場は徳蔵院です。コロナ禍で4年ぶりの復活という正暦寺名物の精進料理『早春御膳』。正暦寺オリジナルの希少酒『菩提泉』(2022年製造)で乾杯の後、「菩提酛」復活チーム6蔵の『菩提酛 純米』6酒を自由に飲み比べていただきました。
料理は、主に寺領内で作られた米や野菜を使い、全て住職夫人・大原眞弓さんと手伝いの人たちの手作りです。早春を感じさせる菜の花があしらわれた膳には、糸なんきんの酢の物や、ヤーコンの天ぷらやきんぴらなど珍しいものも含めて多彩な野菜料理が並び、自家製ごま豆腐に黒米ご飯、菩提酛粕汁が振る舞われました。
住職夫人が、材料の野菜を手に料理の説明をされ、レシピなどの質問にも答えられました。食事中は、奈良県酒造組合の水上和之氏と住職もお酒のサービスに回られ、皆さん、料理と共に菩提酛造りのお酒をいろいろ楽しまれました。
おなかを満たしたところで、6蔵のお酒の味わいなどについての質問や感想をうかがいました。「『菩提泉』はフルーティーでワイン感覚の飲みやすさ」という方が多い中で、「私はこれが」「僕はこれが」とお気に入りの酒名を答えていました。
また「お坊さんは飲酒OKだったのですか」との質問も出て、「日本には神道があり、お酒は神に捧げるものだから飲んで良かったのです」と、古書にある逸話を挙げて、僧侶の飲酒例の披露や、弘法大師の遺言「修行中は飲むな。飲むなら水に混ぜて飲め」に従って「私は水で薄めて飲んでいる」と住職。皆大笑いでした。油長酒造の山本さんは「“おいしい”の先に奈良の歴史を感じることができる=奈良らしい酒造りを目指しています。寺で進化した日本酒だから、これからも進化できると確信している」と力強く語りました。
和気あいあいと色紙の披露、極上美味菓子と抹茶を賞味
飲食を共にしてすっかり打ち解けた皆さん、書道体験で色紙に書いた文字を披露されました。なぜその字を選んだか、今日の体験で心に残ったことなどを話していただきました。酒造りの過程、書道、美味美酒、寺で過ごした時間など、それぞれの思いが文字選びにも反映しているようでした。食後は別室で、夫人特製の渋皮煮を茶菓子に、住職自らお薄を点てて皆に振る舞われました。大好評だった渋皮煮は、夫人の郷里・丹波の大栗を使われ、7日を要して作られたとのこと。そのおいしさを大切に味わっていらっしゃる様子が見て取れました。福寿院前で記念撮影後、おみやげにお酒を購入するなどして、静寂に満ちた冬の境内を散策しつつ車上の人となりました。社内では英語通訳が「皆さん、“トラ”にならなくて良かった! 家までのお守りを差し上げます」と折り紙の鹿をプレゼント。「奈良の神鹿は、鹿島の国から事故なく奈良まで来られたので、これは交通安全のお守りです。家に帰りつくまで気を付けて」と。これは皆さんに大受け、楽しい一日の締めくくりとなりました。
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