2024.02.01 《開催レポ》冬のガストロノミー特別体験プログラム@なら和み館・奈良町情報館(1/21開催) 本格茶会と茶懐石体験 〝日本が誇る食文化・和食。そのルーツは奈良にあり〟と、「日本の食の聖地巡礼・NARA」プロジェクトは、日本の食のルーツを知り、文化を体験できるガストロノミーツーリズムを企画。2023年度も多彩なプログラム6本が展開されています。 その第6弾は1月21日、なら和み館内の食事処「あをがき」と近くの奈良町情報館の茶室で、ゲスト14名を7名ずつ2部に分けて行われました。伝統食材を用いた茶懐石(簡素な食事)をいただき、本格茶会を体験いただくという趣向での開催でした。 2023年10月22日、11月5日、20日、23日、30日と行われた第1弾~第5弾同様、資料・メニューなどは日本語・英語のものを用意。通訳ガイドが司会やゲストの話を同時翻訳するなど、外国人参加者に配慮しました。 ※ 本イベントは観光庁地域一体型ガストロノミーツーリズム推進実証第5弾として実施しました。日本清酒発祥の地であり、様々な日本の食文化のルーツを持つ奈良から国内外に向けて新たなNARAブランドを発信し、増え続ける訪日外国人をターゲットとして新たな商品造成と販路開拓を行うことを目的としています。 お正月らしい和食を濁酒・澄酒とともに 和み館に集まった参加者は、待合まちあいとして用意された部屋で、全員がそろうまでしばし歓談、主催者の挨拶と本日の流れの説明を受けた後に、障子張りの和の個室に通されました。席に着くと、『向附(むこうづけ)』が供され、その内容の説明が森杉健一料理長からあり、“喜ぶ(よろコブ)”に通じる昆布でタイの刺身を巻いて旨みを出した『鯛昆布締め』を本わさびで味わってとのことでした。 なお、当日の料理に使用した出汁だしの水は、日本で最も有名な僧の一人である空海が、高野山で修行を終えた全国行脚の途中、伊勢街道の宇陀の地で発見した湧き水。料理長自らその地まで行って汲んできたものだということでした。 お酒は、濁酒(にごりざけ)から澄酒(すみざけ)まで6種の日本酒が選ばれて用意されました。元来お酒は神様に捧げるものであったということで、奈良の大神神社の神の酒「濁酒」から室町時代に正暦寺で技術革新により生まれ現在に至っている「澄酒=日本清酒」までを、料理と一緒に味わってほしいというものです。 乾杯は『金鼓 うすにごり(大倉本家)』で行われました。美しい漆器に入った『椀物』が運ばれてくると、日本酒の原形ともいえる『百楽門 どぶろく(葛城酒造)』が振る舞われました。『椀物』は魚のすり身を揚げた揚真薯あげしんじょの薄葛仕立てで扇面蕪せんめんかぶらや人参、三つ葉、柚子ゆずなどが彩りも美しくあしらわれていました。 雅な縁高にお正月の祝い肴10種盛り 次に運ばれてきたのは、『縁高(ふちだか)』。正月とあってお節せちに見られる寿ことほぎ料理が10種、見た目も華やかに盛り付けられていました。料理長の説明によると、平和を願う『紅白なます』、成長・出世の『ぶり(奈良漬粕漬け込み)』、不老長寿の『海老旨煮』・『海老芋』、錦色の『厚焼玉子』、マメ(健康)にと『黒豆松葉刺し』(大王松)、めでタイ『小鯛寿司』、春告げ花の『梅人参』、芽が出る(出世)『くわい』、子孫繁栄の『真子の昆布巻き』だとのことでした。 皆さんそれぞれに好きなものから一品ごとに味わいながら召し上がられていました。お酒もうすにごりが好評のようでしたが、後にお茶席が控えているので上手にたしなまれていました。箸使いも上手で、和食文化が世界に行き渡っていることの証に思えました。 奈良の郷土食『茶粥』で〆 茶懐石の〆は、朱塗りの蓋つき椀で供された奈良の郷土食『茶粥』でした。生米から香り豊かな奈良県産ほうじ茶で炊かれた茶粥は、米の花がふっくらと咲き、さらりと胃にやさしい味わい。あちこちの席から感嘆の声が上がっていました。 添えられた香の物は、奈良特産の『奈良漬』。「この漬物が日本清酒製造で出た酒粕で漬けたもので、これもSDGs の一つです」と料理長。酒処奈良で酒粕の使い道を考えて生まれたものだと力を込めました。 美酒美味に話も弾んで 薄茶席を気楽に愉しむ体験 茶懐石をいただいた一同は徒歩で近くの茶席会場・奈良町情報館へ移動しました。そこでは館長であり席主・藤丸正明氏が袴はかま姿で皆を出迎え、通訳ガイドも着物姿で待機、藤丸氏の話を伝えます。まずは待合でお軸の説明を受けました。米俵に小槌と釣り竿の墨絵です。 「軸は本日のテーマ、大国主命(おおくにぬしのみこと)に関わるものです。本日は20種ほどの茶道具が出ますが一つのストーリーに沿った道具を用意していますので、お茶と一緒に楽しんでください」と席主。茶席へ入ると、炉にかけられた茶釜からシュンシュンと湯気が立ち上がっていました。一堂は正座になり、いくらか緊張の面持ちです。 炉を切った茶席で茶会を体験 半東はんとうによりお菓子が運ばれてきました。薄茶の前にお菓子をいただくという作法は、本来茶事の前の茶懐石の最後に甘味が出て、それからお茶をいただくという流れから来ているのだそうです。 席主が水差しを掲げて入室、いよいよ茶会の開始です。「今日は薄茶ですから、膝を崩し、とにかく気楽に楽しんでください」とのことで、男性陣はあぐらに。奈良町の名菓子司製造の酒饅頭をいただき、席主が一服ずつ点てるお茶を順にいただきました。 「ところで皆さん、先ほどの茶懐石で刺身を召し上がられたでしょう? 抹茶は薬(抗菌)なので茶懐石に生ものも出せるのです。茶人仲間にはコロナが出ませんでしたよ」と席主。「今日は日本で評価が高い抹茶を点てます。神に奏する祝詞に出てくる八女茶(やめちゃ)です」など、お茶や道具にまつわる話を気さくな話しぶりでされ、皆の緊張もほぐれていきます。 茶碗には俵やネズミ、兎などの柄が描かれ、お軸にも大国主命、水差やあられ窯も巾着型で大国主命が担いでいる袋と掛けていると、物語性を強調。何と茶室の戸袋の中には大黒天が祀られていました。 藤丸氏は「茶会の趣向はルールに勝る」という哲学の下に、ストーリー性のある茶会企画を愉しまれていて、お道具もそれに沿ったものを集められているとか。400年昔の茶入れや茶杓も惜しみなく触れさせていただき、「使ってこそ、触れてこその道具です」と。 大仏造立の技術が、鋳物など奈良の伝統工芸品を育ててきた、二月堂で僧が神様の名を読み上げる神仏習合…等々、席主の話は、茶道やお道具類にちなんで、その博識ぶりに驚かされ、楽しい時間となりました。 客の質問にも丁寧に解説 茶の湯文化の一端に触れた感動を持ち帰る 最後に、客から「茶道に多くの流派があるのはなぜ?」とか、「この貴重な茶道具の保管はどうしているのか?」「国宝級の茶碗の価値はどこにあるのか?」などの質問が出ました。藤丸氏は、そのいずれにも具体的な例を挙げてわかりやすく説明されました。 茶会終了後、スマホを使ってアンケートに答えていただきました。皆さん、日本の茶の湯文化に触れて、それぞれに奥行きの深さ、先人たちが残した文化遺産に感じ入ってくださったようです。