美食のはじまり 「美食のはじまり」は奈良時代にあるといわれる。貴族など特権階級に限られていたが、全国からおいしい食材が集まり、料理に調味料を使い始めたのがこの頃。おなかいっぱい食べることから、おいしく食べることへ興味関心がシフトした。 当時の宮廷料理を再現した「天平の宴」(奈良パークホテル) 盛り付けなどのスタイリングを楽しみ、五感で料理を味わうことは、近年に誕生した食の楽しみ方だと思われているが、実は1300年前の奈良時代から、盛り付けの食文化は存在していた! 平城宮跡、当時の権力者・長屋王の屋敷跡で発掘された木簡、トイレ跡から発見された食の痕跡からは、当時の貴族の食事情が読み取れる。 奈文研ギャラリー(51)より引用 (訳)酢の甕に鼠が落ちて悪臭を放っているという意味。裏面は「臭」の習書。 穀物・大豆を発酵させた調味料で、今の醤油と味噌に近いもの。従来の塩の味付けから、醬や酢、酒などの調味料が用いられることで料理も格段に進化。701年に制定された「大宝律令」によると、宮中の食事を取り扱う宮内省の部署でさまざまな醬の製造を管理していた。ちなみに豆腐、味噌、砂糖は754年の鑑真の来日で伝えられたとされる。 世界遺産となった和食を支える「うまみ」は、食材を塩漬けにして発酵して作る醬の登場で、奈良時代には高貴な人々の間で既にその味は広まり、日本の美食の歴史が始まった! 古代ひしお 奈良県醤油工業協同組合の有志、『なら食』研究会、奈良県産業振興総合センターで結成された「ひしおの会」によって、奈良時代の「醤」を再現した一品。 価格:1,512円(奈良県醤油工業協同組合) 【購入できる場所】奈良のうまいものプラザ(JR奈良駅ビエラ)ほか問・0745-75-2887(奈良県醤油工業協同組合) 醬酢ひしほすに、蒜搗ひるつきかてて、 鯛たい願ふ、我れにな見えそ、 水葱なぎの羹あつもの 【訳】 「醬と酢を混ぜ、そこに蒜(今でいう香味野菜、ニンニクやネギ)を包丁でたたいたものを混ぜてタレを作り、鯛のお刺身を食べたいと願っているのに、菜っ葉の汁物なんて出さないでよ!」 調味料でおいしくいただくことを楽しんでいたことがわかる表現。万葉集にある、朝廷の役人だった長忌寸意吉麻呂(ながのいみきおきまろ)の歌。醬に酢と香味野菜という立派な創作料理でおいしそう。さらに「いつもの菜っ葉の汁物で残念」という気持ちが痛いほど伝わり、その情景が目に浮かぶ。美食への思いは、はるか1300年前も今も変わらない。